大西ブログ

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『君は戦略を立てることができるか』感想

音部大輔さんの新刊。ご献本ありがとうございます。年末年始のお供にじっくり読ませていただきました。
いただいた本ではありますが、大変面白く読みましたので、忘れないうちに簡単に感想を書いておきます。

タイトルから永井一郎の声で迫ってくるこの本、中身はというと全編*1、音部大輔さんが目の前で戦略の立て方を丁寧に説明してくれるような本です。音部さんのお話を聞いたことがある人には、脳内に言葉が響いてくるのではないでしょうか。
初見の方にもお勧めできます。マーケター向けの講義やワークショップを書籍化したものですが、著者が常々「マーケティングとは市場創造である」と言っているように、狭義のマーケティングの枠を超えた広い意味での価値の創造のための戦略とは何か、ということがテーマとなっており、多くの職種にとって広く意味のある本となっています。

さて、本書は、「目的を明瞭にし、それを適切に再解釈する」「資源を探索し、優勢資源を確立する」ということしか書いていない本です。そして、両者がなされたら、目的に必要な量の資源を投下すれば勝てるという次第です。

これだけ読むと当たり前のことのようですが、本書を読むことで「当たり前のことができていない自分」を自覚でき、また「当たり前を実践するためのステップ」が具体的に示されているという点でとても価値があります。

「普段使い」

より具体的に感銘を受けた点を書くと、まず、本書内でも「普段使い」という語彙で表されているように、壮大すぎたり机上の空論に陥らない、日常使える戦略について懇切丁寧に書かれています。

…など、多様な領域で適用してきました。業界や企業規模、組織体制への依存が少なく、汎用性が高いので、広く使いやすいと思います (p.8)

初めて勤めたP&Gの日本オフィスをはじめ、複数の企業や組織で「目的達成のための資源利用の指針」という定義が広まりました (p.26)

などで示されているように、著者の複数の会社での経験やそれを通しての議論などを踏まえて書かれているため、理想論ではなく、また学術的すぎるわけでもなく、実践書として読めます。

ではどういった部分が実践的なのかというと、これからの読者のために、あまり具体的な内容に触れないようにしますが、「目的を明確に記述する道具」や「目的を再解釈するための目的明確化表」、「資源優勢の整理の方法」などについて事例と共に書かれています。興味を持った方は是非ご自身で一読されるとよいでしょう。

ここがツボ

また、個人的に気に入ったのは、「組織に展開する」や「成長について」といったトピックについて触れられていたことでした。メンバーが戦略を自分ゴト化する、とか、戦略のスキルを高めるのための自分の成長とは、とか戦略を立てるだけに留まらずもう一歩先のことがらに触れられているのは、いいツボを押してもらったような気分になりました。
特に成長に関しては、「現象ではなく仕組みを見据える」といった内容に深く頷かされました。

ほか、楽しく読めたポイントとしては、著者の人柄を感じられる部分でした。ウォーシミュレーションゲームやガンダムが好き、というのが伝わってくるところはくすっと笑いながら読みました。以前から用いられている「ダブルパンチ症候群」や「全砲門一斉開放」といった語句もお気に入りです。

本筋と関係なく面白かった部分としては、

同じ理解ができることは、実はあらゆるビジネス文書にも共通して求められることです。人によって理解が異なるような文章を、私達は「ポエム」と呼んでいます (p.44)

社内グループウェアやITエンジニア界隈で直接業務や技術と関係ない文章をポエムと呼んだりしますが、この定義は簡潔でわかりやすいですね。

この本の読み方

本書の構成として、各章ごとに「まとめ」と「ACTION & LEARNING」という演習がついています。「まとめ」が丁寧すぎるのも人柄を感じました。演習は「自分の足りない部分」を知るのにも良さそうですし、本書をテーマにグループワークするといった用途にも応えてくれそうです。私も早速「第3章その6」の演習を始めようと思います。

褒めてばかりになってしまって若干居心地が悪いので、気になるポイントも書くと、既刊や講演なりで著者の薫陶を受けてきた読者には、知っている話だと感じる部分がややあります。復習として読むとよいかもしれません。

このタイミングで本書を読めたことに感謝し、感想を締めくくります。ありがとうございました。

*1:一部は郷里大輔あるいは玄田哲章の声です

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