はてなでサービス・システム開発本部長をやっている id:onishi です。
この記事は「はてなディレクターアドベントカレンダー」の5日目の記事として書かれました。前の記事は id:AirReader の「サポートからディレクターになって - 日直地獄」でした。
さて、僕の本業は本部長なのですが、この半年ほど暫定的に編集チーフという仕事をやっていて、12/1付で後任者に引継ぎをしました。その引継ぎのために、自分がやってきたことをまとめたものをアドベントカレンダーにしたら安上がり知見をオープンにできて良いと思ったので書いてみます。
以下は、この半年ちょっとで考えたことややったことを時系列ではなく構造的に整理したものです。また僕自身は編集職としてのキャリアは無かったので、これまでの他職種でのチーフなどの経験を活かしてやってきました。一人で考えたものではなく、シニアエディターやその他いろいろな人と相談しながら作ってきたものです。後任のチーフや、組織をマネジメントする人のお役に立てれば幸いです。
チーフとは
はてなのサービス開発は「ブックマークチーム」とか「ブログチーム」のようなサービスを軸にしたチームで構成されています。それとマトリクスを描くように「技術グループ」「デザイングループ」「編集グループ」といった専門職種によるまとまりも存在します。チーフはその専門職グループのリーダーです。
専門職グループの存在意義
はてなは技術の会社です。はてなで働く人に大事にしてもらいたい価値観「はてなバリューズ」の中でもこのように言っています。
技術が好き
- ひとりひとりが持っている技術にこだわりをもとう
- 自分の専門領域を常に貪欲に学習しトッププレイヤーを目指そう
- 技術を使って生まれる価値を大切にしよう
チームとしてサービスを開発し、会社の業績に貢献することは大切ですが、それと同時に自分の専門領域を向上させるというのを大切にしています。
専門職グループを置いてマトリクス組織にしているのは、その技術の研鑽についての責任をもつという現れです。
専門技術を向上させるための、専門職グループの活動は主に以下のものに集約されます。
- 採用
- そもそも専門技術を有する、あるいは向上を望めるメンバーを採用する、その選考に責任を持つ
- 教育
- 採用したメンバーの技術向上のための研修の仕組みづくり、個人の目標立案の補助、メンタリング、コーチング、ティーチング
- 評価
- 半期に一度行われる評価のタイミングで、専門スキル評価を行う
- 対外プレゼンス向上
- 対外発表することによる専門技術の向上、ブランディング、社会への貢献
- 対外アウトプットについては、はてなのエンジニアに期待する「アウトプット」というエントリがありますが、これはエンジニアに限らず、専門職種全般に言えることだと考えています
編集グループのミッション
グループの存在意義がわかったところで、あらためて「編集グループが目指す方向」を考えました。判断に迷ったとき、ミッションに照らして、我々が目指す方向に合致しているかを考える基準になるものになるといいですね。僕が考えた編集グループのミッションは具体的に以下のものです。
編集グループのミッション
「インターネット上における表現活動を編集の力で最大化する」
かみ砕いて言うと
- はてなから発する表現(自社メディア、告知、ヘルプ、規約、自社サイト、サービス上の文言など)を正確でわかりやすいものにする
- ユーザーから発する表現(ブログなどはてなのサービスを利用した表現活動)を後押しし、はてなから良質なコンテンツが生まれる土壌を育てる
- インターネット上の表現活動を編成・編集などによって後押しし、インターネットにおいて良いコンテンツが正当に評価され、より多くのクリエイターにより優良なコンテンツであふれる状態とする
「はてなのビジョン」に書かれているこの部分
当社は、インターネットにおいて良いコンテンツが正当に評価され、より多くのクリエイターにより優良なコンテンツで溢れる状態となることを望みます。
これはまさに、編集グループが目標におくべきことなので、ほぼそのまま活用しています。「文章」という言葉を使わず「表現」としたのは、インターネット上の表現手段やメディアは多様化しており、テキストだけでなくあらゆる表現活動をよりよくしていくことが編集の仕事だと考えたからです。
シニアエディター
もともとシニアエディターという役職はあって、編集職の中で指導的な立場をとってもらっていたのですが、その業務範囲を明確にし、チーフ(僕)との役割分担をしました。
チーフの役割
- グループの方向性/ミッション
- 編集シニア会を開催する
- 編集会を開催する
シニアの役割
(複数のメンバーがいるので実際は具体的な分担も決めています)
- 採用
- 書類選考
- その後の面接、可否判断に参加
- 教育
- 研修ドキュメント整理
- 評価
- 目標設定面談
- 定期面談
- 期末評価
- ブランディング向上
- 編む庭(ブログ・イベント)
- その他
- 社内編集タスクの巻き取り
- チーフ不在時の代理
専門職スキルを有しないチーフ(僕)と有するシニアで、僕は型を作ってシニアに執行してもらうという体制をとりました。
メンタリング、コーチング、ティーチング
シニアとそれ以外のメンバーでメンター・メンティーの関係を設定しました。
月一回、月報提出とメンター面談を実施し、専門目標の達成状況や業務、キャリアに関する相談の場としています。
活動場所
編集メンバーの活動のための場所を作りました。
- はてなグループ
- 自社製グループウェアです。はてなでは、チーム毎、専門職グループ毎に一つずつはてなグループを作るのが一般的です
- トラックバックで業務上のやりとりをする他、編集技術に関する知見も積極的に投稿するように呼びかけています
- Slackチャンネル
- 社内Slackに編集メンバー全員参加するチャンネルを作りました。編集メンバーだけでなく、編集や文章についての相談もできるように Public チャンネルにしています。 #editors 社内の方はお気軽に join してください
会議体の組織
編集シニア会
上記編集シニアとチーフ(僕)が話す会です。目的は「編集グループ」をちゃんと組織化すること。
GitHub Enterprise の issue でやることを管理して、この記事に書いているような決めごとをしたり、個別のメンバーについての相談をしたり。
そんなに話す事もないだろうと油断していて、当初は毎週だけど徐々に頻度は減らしていこうって言ってたのですが、結局任期の間ずっと毎週やっていました。
編集会
編集グループ所属メンバーが全員集まる会です。目的はメンバーの情報共有です。
はてなは東京・京都と二つの拠点があり、編集メンバーは地理的にも離れているほか、自社メディアの運営と、他社オウンドメディアの運営補助、記事広告など編集といっても様々な業務があるので、チームやオフィスを跨がった情報共有を大事にしています。
こちらは参加メンバーも多くコストがかかるので基本は隔週開催。アジェンダは以下のようにしています。
- 近況報告(全員)
- 3行で今やっている仕事の内容を共有、職務上の悩みがあったらそれも話します。その場で軽くディスカッションになることも
- 知見共有
- はてなグループ上に投稿されたエントリを確認し、知見を共有します
- はてな編集部ブログ「編む庭」企画会議
- 編集メンバー持ち回りで「編集」に関するさまざまな記事をお届けするブログです
- 次の記事の企画、書かれた記事の振り返りなど
- 新しい登場人物
- 自社メディアでも他社オウンドメディアでも、ブロガーさんに寄稿をお願いすることがあります。「こんどこのブロガーさんに記事執筆をお願いする」という情報を共有しておくことで、各媒体の運営がスムーズになります
- この人にあれを聞きたい
- 編集、とくにウェブ編集者は、たとえばHTML/CSSに造詣が深い、画像処理ができる、動画が作れる、ソーシャルメディアに詳しい、などなど必要なスキルが多岐にわたってきています。この人に具体的にこのスキルについて聞いてみたい、というスプレッドシートを全員で共有し、情報交換の促進を促しています
専門目標
はてなにおける評価項目(転じて目標軸)は3軸あり、「成果」「行動スキル」「専門スキル」の3つです。専門職グループは、「専門スキル評価」とそのための「専門スキル目標」にコミットします。
成果目標に対して専門スキル目標は、個別具体的な技術向上の目標になったりしがちですが、会社やチームの方向性は不変ではないので、ともすれば業務と専門スキル目標を両立することが難しかったりします。
そのため、専門スキル目標の位置づけは以下のように定義し、目標立案をお願いしています。
- 専門スキル目標は、達成・未達成が評価に直結するものではなく、専門スキル向上のための「成長目標」と捉えてください
- 「今期はこれを頑張ります・伸ばします」というマニフェストと考えるとわかりやすいと思います
- 目標達成のために努力した結果が専門スキル評価向上というかたちで反映されるはずです
- メンターと相談しながら、職種専門スキルを伸ばすための目標を「必ず1つ以上」立ててください
専門スキルを伸ばすことは本人にとってプラスである、個々人が専門スキルを高めることが会社に還元される、という正の循環を作っていきたいですね。
編集チーフをやってよかったこと
という感じでいろいろやってみて、なんとなく形になってきたかなというところです。編集職スキルを有しないチーフとしては型を作るまでが仕事で、実際にこれに則ったりもっと良くしていったりして、実際的に編集職のメンバーを伸ばしていくのは後任にお任せしたいと思います。後任のチーフは編集畑の方なので、大いに力を発揮してもらえると期待しています。
編集職を育てていく環境もより整備されていくと思いますので、ウェブ編集の仕事に興味のある方は是非ご応募ください!
もともとエンジニアとしてやってきて、チーフエンジニア、ディレクター、プロデューサー、本部長、編集チーフ、と職種を変えたり増やしたりしてきたのですが、変えるたびに何をやっていいかわからず、ゼロから積み上げる不安な気持ちになってきたものでした。
しかし、最近は特に業務の変化が多く発生するなかで、培ってきた経験やスキルが他職種でも生きるという気づきをたくさんしています。エンジニアのチーフから編集のチーフは、同じチーフなのでそれがわかりやすく感じられたのがよかったです。
先日、デブサミ関西でも発表したのですが、エンジニアがマネージャになることって地続きの部分もあるなと思っています。サービスを作るのも組織を作るのも、結局は問題を発見して仮説を立てて改善し…というPDCAサイクルを回すのは一緒ですし。
専門職種の人間が一人で上げられる成果、に上限は無いと思います。1つのライブラリが世界中で便利に使われることもあります。そういう追求もあるし、専門職種やチーム全体の向上に力を割くこともまた面白いな、と感じています。自分の考えた仕組みでうまくいってなかったチームがうまく回り出した、自分一人で到底なし得ないような大きな成果をチームがなし得た、と感じた時にチーフやディレクターをやってよかったと思ってきました。
おわりに
というわけで、編集チーフとしてやってきたことをまとめつつ、チーフやディレクターというマネージャ職について僕が考えていることを書かせて貰いました。なんとなくディレクターアドベントカレンダーの体はなしたのではないでしょうか。
はてなディレクターアドベントカレンダー、次回は id:riko さんです!